2007年1月 9日 (火)

命の重さを感じる

年末年始に二本の映画を観に行きました。本当に久しぶりでした。

1月3日に観たのはクリント・イーストウッド監督、渡辺 謙主演の『硫黄島からの手紙』です。イーストウッド氏は、映画俳優であり監督としても名高いのですが、1986年から2年間カリフォルニア州カーメル市の市長を務めたこともある「政治家」の顔も持っています。

さて、『硫黄島からの手紙』は、米国の視点から描かれた『父親たちの星条旗』に続く『硫黄島』2部作です。1945年、日本とそこに生きる家族や肉親を、米軍による本土空襲から守るという使命のもと、何万もの若い日本兵が命を賭けて硫黄島を守り抜こうとしました。イーストウッド監督が言うように、この2部作は、戦争をするどちらかの国が正義だというような従来の戦争映画とは一味もふた味も違うものでした。
祖国を思い、肉親への愛を胸に戦った人々は、尊敬すべきものであると思います。一方で、戦争によって大切な命が失われることの愚かさも身にしみます。

特に、この映画の中で、数多くの若者が「自決」の道を選ばざるを得なかったことは、胸が塞がる思いがしました。というのも、昨年、社会問題ともなったいじめを苦にした青少年の自殺を思い起こしたからです。現代の日本で、自殺による死者は3万人を超えています。戦争という極限状況の中でさえも、戦うことではなく、自らの命を絶たざるを得なかったという事実は重いものがあります。
人間には、どんな人にも命を全うする権利があり、またそれは責務でもあると思います。生きる権利を奪うことは大いなる罪に他なりません。

もう一本、年末に観たのは山田洋次監督、木村拓哉主演の『武士の一分』です。この中でも、盲目となってしまったことに悲嘆して、主人公の新之丞が自殺を図ろうとするシーンがあります。この自殺を止めさせたのは妻の加世の深い愛でした。自殺を思いとどまった新之丞は立ち直り、役目も果たせるようになっていくのですが、そこに妻との悲劇が待ち受けています。
藤沢周平氏の原作になるこの映画は、壮絶な武士の物語であるとともに、夫婦の愛と、命の尊さを訴えているように思えました。

山田監督は、『幸福の黄色いハンカチ』や『男はつらいよ』シリーズで著名な日本を代表する監督ですが、今回の作品でも、人間の情愛を温かく見つめるまなざしにあふれています。先に述べたイーストウッド監督にも、人間に対する深い愛情を感じました。

二本の映画から、改めて、人の命の大切さを訴える一年にしなければならないと決意を新たにしました。

ご覧になった皆さんは、どのようなご感想をお持ちになったでしょうか?

1月 9, 2007 文化・芸術 | | コメント (37)

2005年11月 8日 (火)

木のホールの温かみ~県立音楽堂~

先日、「神奈川フィルハーモニー管弦楽団(通称:神奈フィル)」のお話を書きましたが、音楽に関連して、神奈川には誇れるものが他にもたくさんあります。そのひとつが「神奈川県立音楽堂」です。

県立音楽堂は「みなとみらい」の高層ビルを見晴らす絶好のスポットである「紅葉ヶ丘」に建っています。近くには、日本の開国を指揮した大老である井伊掃部頭直弼(いいかもんのかみなおすけ)の銅像が港を見下ろしている「掃部山(かもんやま)公園」や「横浜能楽堂」、「県立図書館」それにリニューアルオープンしたばかりの「県立青少年センター」もあります。

この音楽堂、実は、戦後の日本を象徴する貴重な近代建築物です。竣工は昭和29年。戦後の経済成長前の、まだまだ衣食住も満ち足りない時代でしたが、「こういう時代だからこそ、文化の振興を!」という、当時の内山知事の英断で、実現した音楽専用ホールです。建築家は、近代建築の大家であるル・コルビジェの教えを受けた前川國男氏。図書館と一体となったモダンな外見と、コンクリート打ちっ放しの外壁が特徴です。

そして、ホールの中は木の内装で覆われ、「木のホール」として親しまれてきました。
ロンドンの「ロイヤルフェスティバルホール」をモデルに、最高の音響効果をあげるように設計されたホールの優れた音響は、当時東洋一と評され、数多くの演奏家からも愛されてきました。このホールは、座席数1054席とやや小ぶりなこともあり、アマチュアの皆さんによく利用していただいています。

昨年11月には開館50周年を迎え、日本でも最も古い歴史をもつ音楽ホールとなりました。前後3年間を記念期間と設定して、充実した企画を展開しています。10月23日には、「第12回芸術フェスティバル」で世界最高峰と言われるビオラ奏者ユーリー・バシュメットを招いてのコンサートがありました。11月19日には同じフェスティバルで、内外で活躍されている気鋭の指揮者・井上道義さんによる「井上道義の上り坂コンサートVol.5」なども開催されます。

最近は、横浜・川崎など、新しい豪華な音楽ホールも増えてきました。これらのホールは、最新の設備を備えていることも確かです。
そうした中にあって、50歳を超えて、なお現役で奮闘している県立音楽堂。しばらく前にアメリカの作曲家ヘンリー・クレイ・ワークが作曲した「大きな古時計」という心温まる歌がリバイバルでヒットしましたが、何となく、音楽堂の木のホールの温かみにも通じるような気がしませんか。

この音楽堂には、JRと市営地下鉄の桜木町駅から海とは反対の野毛の方に出て、「音楽堂通り」から「紅葉坂」をのぼり、約10分。散歩やデートに、一度、訪れてみてはいかがでしょうか。

神奈川県立音楽堂のホームページ:
http://www.kanagawa-ongakudo.com/index.html

11月 8, 2005 文化・芸術 | | コメント (115) |

2005年10月14日 (金)

文化芸術は地域の宝物

10月9日に、「神奈川フィルハーモニー管弦楽団(通称:神奈フィル)」の定期演奏会に行ってきました。実は、それに先立って、「ウイークリー知事現場訪問」で、10月3日、「かながわアートホール」に、リハーサル中の神奈フィルを訪ねてきました。神奈フィルは、昭和45年3月に「ロリエ管弦楽団」として、鎌倉で産声をあげ(昭和53年に現名称で財団設立)、30年以上にわたって神奈川を中心に音楽活動を続けてきた歴史あるオーケストラです。皆さんご存じでしたか?

私も、毎年何回かは定期演奏会にうかがっています。今回、楽団員の方々からお話を聞いて定期演奏会や特別演奏会のほかに、養護学校、福祉施設などでのボランティア演奏会も行っていることを知りました。まさに、草の根から神奈川県の文化を支えていることに、改めて感動しました。

練習の様子を見学していたら、突然、指揮者の現田さんから、「知事、タクトを振ってみませんか?」と言われて、思い切って挑戦してみました。ショスタコーヴィチの交響曲第5番作品47「革命」の第4楽章だったのですが、素人の私のタクトに合わせて、楽団員の皆さんが、上手に音楽を奏でてくださいました。生まれて初めての体験でしたが、重層的な音が響き渡って、その素晴らしさにびっくりしました。70名余りの楽団員が奏でる様々な音色の楽器が、ひとつになって、身体全体に響いてきました。個性ある楽器と楽団員の皆さんをコーディネートしていく「指揮者」の役割は、県知事の仕事にも通じるものがある(?)と感じました。

「文化行政」が自治体で盛んになってきたのは、昭和50年代からでした。神奈川県でも、「文化室」を設置したのが、昭和52年です。地域での文化の振興とともに、「行政の文化化」の重視され、文化の視点から行政のあり方を見直そうという、ある種の行政改革の運動が展開されてきました。神奈川県はその先駆けとなった自治体のひとつです。

伝統文化も現代芸術も、文化芸術は暮らしに豊かさをもたらしてくれます。日本は、今、追い付け追い越せといった「成長至上」「効率優先」の時代から、生活の質を重視する「成熟」の時代に移りつつあります。人々がゆったりと充実した生活を送る「スローライフ」や質のよい食べ物をゆったり食べる「スローフード」が注目を集め、最近では、環境や持続可能な社会を志向するライフスタイルを意味する「LOHAS(ロハス)」(Lifestyles of Health and Sustainability)も関心を集めています。こうした時代だからこそ、生活を豊かにしてくれる文化芸術は大きな意味を持ち、より一層求められているのだと思います。

とはいえ、欧米と違って文化芸術を「地域の資源」や「社会共通の財産」として、皆で支えていくという慣習が、日本ではまだまだ根付いていないことは問題だと思っています。神奈フィルに対しても、もっと多くの皆さんが、「定期会員」や「応援する会」などのサポーターとして支えてくださることを願っています。


【神奈川フィルハーモニー管弦楽団のホームページ】
http://www.kanaphil.com/

10月 14, 2005 文化・芸術 | | コメント (388) |